大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成10年(ワ)4362号 判決

東京都荒川区西尾久五丁目一番一九号

原告

関文隆

東京都港区南青山二丁目一番一号

被告

本田技研工業株式会社

右代表者代表取締役

川本信彦

右訴訟代理人弁護士

平尾正樹

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、被告の自動車カタログのうち、別紙一の赤線で囲まれた「リモコンエンジンスターター」の名称並びにその説明文及び写真(以下「被告説明文等」という。)を掲載したもののすべてを回収して、一般消費者の目に触れないようにしなければならない。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、別紙二の「自動車のエンジン、エアコンの無人始動・停止について」と題する書面及び別紙三の「リモート・イグニッション・スイッチの論理(2)」と題する書面(以下、これらを「原告著作物」という。)の著作者である。

2  被告は、被告説明文等を被告のカタログに掲載し、全国に配布している。

3  被告の右行為は、原告が原告著作物について有する著作者人格権を侵害するものである。

4  よって、原告は被告に対し、被告説明文等を掲載した被告の自動車カタログの回収を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は不知。

2  同2は否認する。被告説明文等をカタログに掲載し、配布しているのは被告の関連会社である株式会社ホンダアクセスである。

3  同3は争う。

理由

一  請求原因2について

請求原因2の事実を認めるに足りる証拠はない。

かえって、甲第四号証及び弁論の全趣旨によれば、被告説明文等を自動車用品のカタログに掲載し、そのカタログを配布しているのは被告ではなく、被告の関連会社である株式会社ホンダアクセスであると認められる。

したがって、被告には、原告が著作者人格権の侵害行為であると主張する行為を行った事実が認められないから、この点において既に本訴請求は理由がない。

二  請求原因3について

本訴請求の理由がないことは前記のとおりであるが、原告の主張に鑑み、著作者人格権侵害の成否についても判断する。

1  著作権法は、著作者は著作者人格権を享有する旨規定し(同法一七条一項)、著作者人格権として、公表権(同法一八条)、氏名表示権(同法一九条)及び同一性保持権(同法二〇条)を定めているが、右の各権利はいずれも、著作物、その複製物又は当該著作物を原著作物とする二次的著作物が利用される場合を前提として、その利用行為のうち、公表するか否か(同法一八条)、著作者の氏名を表示するか否か(同法二九条)、改変を認めるか否か(同法二〇条)といった著作権法の定める事項について、当該著作物の著作者にその決定を委ねる趣旨で著作者に認められる権利である。

したがって、ある著作物について著作者人格権が侵害されたというためには、その前提として侵害を主張される著作物の利用行為がなければならない。

2  ところで、甲第四号証、乙第一号証及び弁論の全趣旨によれば、前記株式会社ホンダアクセスは、平成五年からリモコンエンジンスターターの名称でリモコン操作による自動車のエンジンの始動・停止装置を販売しており、そのころから右リモコンエンジンスターターをカタログに掲載してそのカタログ(乙第一号証)を配布していること、右カタログには、リモコンエンジンスターターの名称及び右装置の説明文として、「見通しのよい場所なら約200m~300m離れた所からでもエンジンの始動/停止ができます。」、「空調のスイッチをあらかじめ冷房または暖房にセットしておけばお出かけの前に車内をいつも快適にしておくことができます。」、「約10分後に自動的にエンジンが停止」、「駐車ブレーキがかかっていないとエンジンはかかりません」、「セレクトレバーが(P)の位置(パーキングポジション)になっていないとエンジンはかかりません」、「ボンネットと全ドアが閉じられていないとエンジンはかかりません」、「ひとつの送信機で作動する受信機はひとつですので、誤作動の心配はありません」との記載があり、右装置の写真(別紙四の赤線で囲まれた写真)が掲載されていること、以上の事実を認めることができる。

右認定の事実によれば、右カタログ(乙第一号証)のリモコンエンジンスターターの説明文及び写真は、被告説明文等と極めて類似しており、実質的に同一のものと見られるのであるから、被告説明文等は、平成五年に作成された乙第一号証のカタログをもとに作成されたものであると認められ、原告著作物に依拠して作成されたものでないことは明らかである。

3  したがって、被告説明文等をカタログに掲載し、そのカタログを配布する行為は、原告著作物を利用する行為ではないから、右行為が原告著作物について著作者人格権の侵害となることはあり得ない。

よって、本訴請求は、著作者人格権の侵害が認められないことからも理由がない。

三  以上の次第で、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 森義之 裁判官 榎戸道也 裁判官 中平健)

別紙一

〈省略〉

別紙二

〈省略〉

別紙三

〈省略〉

別紙四

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例